沖縄歴史認識懇話会

普天間飛行場の辺野古移設問題(その4)

(2)「辺野古新基地阻止」運動と歴史問題

* 2017年8月12日、「辺野古新基地の阻止」、「オスプレイ撤去」等を要求する沖縄県民大会(辺野古新基地を作らせないオール沖縄会議主催)が開催され、主催者側発表で45,000人が参加したと地元紙は報じました。挨拶に立った翁長県知事は、普天間基地のオスプレイがオーストラリア沖で墜落した事故や政府が進める辺野古移設のための諸工事に関連し、「日本の独立は神話だ。」「強硬に新基地建設を推し進める(政府の)姿勢は法治国家という言葉に程遠い。」「今後も県民に対するいかなる差別的、犠牲的な扱い、基地負担の押し付けに反対し、オスプレイの配備撤回、辺野古新基地建設反対、普天間飛行場の閉鎖・撤去に取り組んでいく不退転の決意を約束する。子や孫のため先祖の思いを胸に刻み、命の限り頑張ろう。」等を述べました。

* 「沖縄は差別されている」、「日本の独立は神話だ」、「日本は法治国家ではない」、「日本は地方自治権も守れない非民主主義国家である」、「もう地位協定の全面的改定しかない」「米海兵隊の撤兵しかない」と訴える翁長県知事はじめオール沖縄運動の参加する人たちの姿を見て、多くの本土の人たちは“沖縄県の人たちは大変だ。相当苦労しているようだ。基地問題は何とかならないのか?“といった気持ちは持ったでしょうが、その訴えの内容については、違和感を抱いたのではないでしょうか?辺野古への代替施設建設問題の決着を遠のかせるため、オール沖縄の人たちは敢えてこのような主張を行っているのではないかといった疑問を呈する人たちさえ本土にはいるようです。

* 翻って沖縄県内では長年わたって「沖縄差別」問題が取り上げられてきています。その経緯については、沖縄歴史認識懇話会(「沖歴懇」)の2017年4月3日付パンフレット“「沖縄賢人会議」(仮称)の設置求めて”(ホームページ参照)の中で説明しておりますので、ここでは省略させていただきます。いずれにせよ、翁長雄志県知事やオール沖縄の人たちが最近になって初めて「沖縄差別」を主張し始めている訳ではありません。ここには戦前戦後の沖縄の歴史的背景があるのです。オール沖縄の人たちは、日本の安全保障のためとして政府は沖縄に過重な負担を強いている、かかる強圧的な政策は沖縄戦以来今日に至るまで続いているものであると主張しており、その根底には長く「沖縄差別観」が横たわっていると推察されます。上述したように、政府の普天間飛行場の辺野古移設・建設計画についても、時間の経過とともに、代替飛行場の規模及びそこから生じ得る各種の環境問題等に対する懸念が高まり、これと沖縄の歴史に対する苦い記憶が結びつき合って、政府と沖縄県との間の対立は深まり、建設的な対話が行われる余地が狭まってきていると言えるでしょう。

* これに加え、2018年に入っても普天間飛行場所属ヘリコプターの不時着事故等が相次いでおり、基地周辺住民の不安を増大させていることが大きな懸念材料となっています。こうした状況では、既存の米軍基地から生じる県民の物理的・心理的負担感は増すばかりであり「辺野古新基地」建設の推進など論外である、といったような声が、今後沖縄県内で益々高まっていくでしょう。特に2018年は名護市長選(*)や県知事選が行われる年であり、辺野古移設反対運動は益々活発になっていくと予想されます。こういった状況にあるにも関わらず政府の対応ぶりは相変わらず受動的で、後手、後手に回っているといった印象を沖縄県民に与えています。

(*)名護市長選の投開票日は2018年2月4日であり、この投稿は、同市長選の結果判明時間前の同日、「沖歴懇」ホームページへ掲載されたものです。

* 朝鮮半島の緊張が高まっていることもあり、日本政府は米政府に対して米軍関係者による事件・事故の再発防止策を強く求めにくい状況にあるのでしょうか?朝鮮半島情勢が緊張しているが故に、却って政府としては、沖縄県内の懸念増大に対して、普段通り(ビジネス アズ ユージュアル)以上の対応をしていくことが求められているのではないでしょうか?即ち、一方で朝鮮半島情勢を巡る緊張が高まり、他方で沖縄県内における米軍関係者による事件・事故が続く現下の状況で、政府は、米軍基地負担軽減問題について短期的及び中期的に如何なる措置を取ろうとしているのか、中でも中期的措置として位置づけられる普天間飛行場の辺野古移設問題については、周辺住民の(少なくとも物理的側面の)基地負担軽減について、具体的に如何なる措置を取ろうとしているのか、語りかけるといった対応ぶりを活発化させていく必要があるのではないでしょうか?

* 上述したように、多くの本土の人たちからすれば、政府としては、日本の安全保障という切実な国益確保のため、辺野古地域周辺住民に対して新たな基地負担を求める以外に、目下のところ現実的な選択肢を他に持っている訳ではないように見えます。従って、オール沖縄運動参加者たちが、米海兵隊が自らの判断で沖縄の兵力をグアム島等に移転することによって普天間飛行場を全面的に返還するまで時を待つと考えているとしたならば、宜野湾市民の希望実現は更に遠のいてしまう恐れがあるのではないでしょうか?また、上述のように、普天間飛行場の辺野古移設は、全県的に見れば、米軍基地物理的負担軽減につながるとの見方が成り立つ可能性もあり、シミュレーション作業を実施する価値があるのではないでしょうか?更に、代替施設建設中及び建設後に生じるおそれのある各種の環境問題や米軍関係の事件・事故等を巡る新たな基地負担について、政府は、辺野古周辺住民を含む名護市民の安全・安心のための手立てを講じ得る余地がまだ十分にあるのではないでしょうか?

* こうした状況を勘案するならば、政府としては、普天間移設を巡る重要課題を正面から包括的に取り上げていくことこそ、喫緊の課題ではないでしょうか?政府としては、具体的な理由・背景を説明しつつ、辺野古移設を受け入れて欲しいと“正直ベース”で沖縄側に訴えていくべき時がいよいよ到来したのではないでしょうか?今政府が受動的な対応に終始するならば、沖縄県内では辺野古移設と歴史問題との結びつきを強める意識が益々強まり、実務問題の周りに県民意識という蜘蛛の糸が十重二重に巻き付いて、いずれ身動きもできない状況が出来上がってしまうのではないでしょうか?恐らく政府がオープンに語ることによって短期的には沖縄県内の移設反対運動は激化するでしょうが、時間を稼げば事態は好転するという時期は既に過ぎ去ったのではないでしょうか?

* 既に私どものホームページに掲載した「沖縄差別」(その1~その3)で何度も触れてきましたように、長年にわたる沖縄の歴史的体験は沖縄の人たちの深層心理に深く結びつけられており、「経済計算」的アプローチで米軍基地問題を語ってもなかなか県民の納得を得ることはできないでしょう。「沖縄差別」というものが制度的に出来上がっていると証明され得るかどうかは別にして、何度も繰り返しますが、本土の人たちには、沖縄の歴史問題に十分意を用いていくことが強く求められます。一方、こうした本土側の意識改革だけで物事が進むことも期待できません。沖縄側にも一歩前に進んで貰い、双方の努力によって、「喜び半減」「重苦しい感じ」というところで着地点を見出していくべき時が来たのではないでしょうか?

* 「沖歴懇」は、本土の人たちが沖縄県民の歴史的体験に同情を深めるだけ、また、同時に沖縄側が「沖縄差別」に象徴される「歴史問題」の主張を強めるだけでは、普天間飛行場返還問題の進展を望むことは難しいと考えています。端的に言って、本土の人たちは、隣近所に米軍基地を招きたくないというエゴを持っていることを深く自覚し、日本の国益のため沖縄県民に大きな米軍基地負担をお願いすることへの申し訳ない気持ちを持って、何か行動を起こすべきではないでしょうか?即ち、本土の人たちは、日本復帰に至るまでの沖縄県民の基地負担の重さに思いを致すとともに、引き続き安保体制の前線に立って貰っている沖縄の人たちに対し、何か具体的な協力を行っていくべきではないでしょうか?政府においても、こうした国民の意識変革をバックアップする具体的な施策を講じていくことが重要ではないでしょうか?2017年11月全国知事会に米軍基地負担に関する研究会が設置されました。そうした場において、全国的に沖縄の米軍基地負担軽減を図る手立てについて議論して貰うことも一案でしょう。