沖縄歴史認識懇話会

政府と沖縄の対話(その2)

私ども沖縄歴史認識懇話会(「沖歴懇」)は、今後政府と沖縄県との間で対話が行われる際には、SACO最終報告に基づく米軍基地の整理・統合の過程をレビューしつつ「ポストSACO」合意ともいうべき米軍基地縮小のための新たな方向性について議論していくことを提案したいと考えます。

その理由は以下の通りです。

 

1.1996年のSACO最終報告は、土地の返還、訓練及び運用方法の調整、騒音軽減措置、地位協定の運用改善の4項目からなっています。土地の返還のすべてが実施されると、在沖縄米軍基地面積の約21%が返還されることになりますが、最終報告公表時から沖縄県内では、その完了時点においてもなお全国の米軍基地の約71%が沖縄に残ることになるとして、県民の基地負担は依然として極めて大きいと指摘されてきました。その後米軍再編の一環としてSACOの枠外で土地が返還される事案が追加されましたが、それを入れてもなお全国の70%弱の米軍基地が沖縄に残ることになり、米軍関係者による事件・事故や環境問題等もあって、沖縄県民の持つ思い負担感は続いています。

 

2.SACO最終報告に盛られた普天間飛行場の返還については、当初辺野古隣接地域にある米海兵隊基地キャンプ・シュワブ沖に代替施設としてヘリポートを建設するという方針が示されました。最終報告公表直前に橋本龍太郎総理大臣から直接電話連絡を受け、普天間飛行場の返還を歓迎した大田昌秀沖縄県知事は、後にこの代替施設建設の考え方を拒否することになりましたが、普天間飛行場の全面返還を実現する措置として、当時沖縄県内では、この代替施設建設案を積極的に捉える人が多かったと考えます。大田知事以降、代替施設建設の条件付き賛成を打ち出した稲嶺県政とその後の仲井真県政の時代に建設計画案の内容は変わって行き、紆余曲折を経て仲井眞知事が最終的に代替施設建設のための辺野古沖の埋め立てを承認した時には、この代替施設案は1996年当時の予想をはるかに越える大規模なものとなっていました。続く翁長県政では、この計画は辺野古に「新基地」を建設するものであると捉え、「辺野古新基地は認めない」との方針を表明し、政府との対立姿勢を鮮明にしました。翁長知事の逝去により先般行われた県知事選で当選した玉城デニー新知事は、翁長前知事のこの政策を受け継いでいます。これに対して政府は、世界一危険な普天間飛行場の全面返還を実現することが国や沖縄県にとって極めて重要であり、そのため辺野古に同飛行場の代替施設を建設することが唯一の選択肢であるとして、現行計画を推進しようとしています。

 

3.なお、SACO最終報告による基地返還は、最終報告公表時から、純粋な返還というよりも米軍の機能に変更を加えない既存基地の整理・統合であるとする見解が沖縄では存在しておりました。翁長県政以降この主張は強化され、特に辺野古への現在の代替施設建設を含めた場合、全体として却って沖縄県民に負担増を強いる結果になるとする受け止め方が、県内で広まっています。

 

4.1996年のSACO最終報告公表時に一般的に理解されていた負担減と負担増のバランスは、今や大きく崩れていると捉える沖縄県内の見方が広まっている現状で、政府としてこれに何の手立てもせずに現行計画案を進めて将来に禍根を残すことにならないか、というのが「沖歴懇」として問題提起です。「沖歴懇」としては、辺野古への代替施設移設・建設に対する政府と県のそれぞれの方針について是非を論じるものではありませんが、県民の間に広まりつつあるアンバランスの感覚を如何にして縮小させていくかについて、政府も県も知恵を絞り出す必要があると考えております。そのためSACO最終報告の実施に引き続き、沖縄の米軍基地の整理・縮小の新たな方向性について、政府と沖縄県の対話において議論をしていくことを提唱するものです。

新たな方向性を議論する際に検討すべき若干のポイント

 「沖歴懇」としては、ポストSACO合意について議論する際には、特に以下のポイントが重要になると考えます。

 

1.土地の返還については、例えば2017年の北部訓練場の過半の返還に伴い新設されたヘリパッドは、辺野古の代替施設建設終了後に閉鎖すべきです。この他にも沖縄における米軍基地の純減を図る余地は残されていると考えます。

 

2.更なる沖縄の米軍基地の返還に関連し、それらの持つ機能を日本に残す必要がある場合には、本土の自治体でそれを受け入れるべきです。こうした点については沖縄県としても全国知事会において訴え続けることが重要となるでしょう。日米安保体制に基づく米軍基地問題については、広く全国民で考えていくことが必要です。政府は、沖縄の米軍基地負担軽減に対するこれまでの努力に加え、沖縄県とともに全国の自治体への協力と支援を求めていくべきと考えます。

 

3.米軍基地を受け入れている地方自治体は、日本国民全体のために負担の「痛み」を受け入れている訳ですから、政府が税金を使ってその負担に報いることは当然のことです。沖縄県内では沖縄経済振興と米軍基地負担はリンクしている、していないと激論が行われておりますが、本来国は地方自治体に対してこうした負担に見合う補償をおこなうべきであり、沖縄県側でその受け入れを躊躇する理由は見当たりません。なお、補助金を受け入れると自律的経済発展が困難になるとする議論がありますが、一人当たり県民所得が日本で一番低い沖縄が少しでもその順位をあげていくためには、利用可能なあらゆる財政源を積極的に活用すべきです。基地の存在の有無に拘わらず、一人当たり県民所得の順位を上げることの難しさは、本土の地方自治体の実例を見ても明らかです。沖縄県としては、むしろ政府からの支援を十二分に活用しつつ、経済の自立的発展を狙っていくべきではないでしょうか。普天間飛行場の全面返還は、沖縄経済の発展に貢献する当面の最大の起爆剤になることでしょう。

(了)